2025年8月2日放送のNHK「アニマルドック」で、コアラのかわいさに隠された驚きの進化について特集されました。
一見、ぬいぐるみのように愛らしいコアラですが、その体には厳しい自然を生き抜くための驚くべき秘密が詰まっています。
番組では、木の上での生活に適応した体のつくりから、毒のあるユーカリを食べるための特殊な消化器官、さらには親から子へと命をつなぐ感動的な子育ての知恵まで、コアラの奥深い生態が詳しく紹介されました。
コアラは見た目だけじゃない!体のすごさを調査
番組の調査は、国内最多となる19匹のコアラが暮らす鹿児島市の平川動物公園から始まりました。
コアラが木の上で巧みに生活できるのは、その体に備わった特別な能力のおかげです。
木登りに特化した体は、長くて鋭い爪が木の幹をしっかりと捉え、枝を握るための指も特殊な構造をしています。
さらに驚くべきことに、コアラは人間やサルと同じように指紋を持っています。
これは霊長類以外の動物では非常に珍しく、滑りやすい木の表面でもしっかりと掴むために進化した、コアラならではの特徴です。
コアラとサルはなぜ似てる?“収れん進化”の不思議
コアラとサルには、ほお袋があったり、物をしっかり握る手の形が似ていたりと、いくつかの共通点が見られます。
これは「収れん進化」と呼ばれる現象で、全く違う種類の生き物でも、同じような環境で生活することで似た体のつくりに進化することを指します。
番組では、他にも飛膜を持つフクロモモンガとタイリクモモンガや、外見が酷似しているズワイガニとタラバガニが収れん進化の例として紹介されました。
異なる種が似た姿へ進化する自然の仕組みは、生命の奥深さを感じさせます。
コアラにとってユーカリは命の源
コアラの食事は、700種類以上もあるユーカリの中から、ごく特定の数種類しか口にしないという、非常に偏食なスタイルです。
動物園では、コアラの好みに合わせて7種類のユーカリを栽培し、毎日新鮮な葉を与えています。
実は、ユーカリの葉には動物にとって有毒な成分が含まれています。
しかし、コアラは優れた嗅覚や味覚を使い、毒の少ない葉を巧みに見分ける能力を持っています。
体内に取り込まれた毒素は、肝臓の特別な酵素や腸内にいる細菌の働きによって分解されます。
特に、約2メートルもの長さがある盲腸が、この解毒作用で大きな役割を果たしています。
解毒には大量のエネルギーを消費するため、コアラは1日のうち実に20時間も眠ってエネルギーを温存しているのです。
ユーカリとの戦いを支える体のしくみ
スタジオでは、ユーカリの葉が持つ多彩な匂い成分が紹介されました。
葉の種類によって香りの強さや質が異なり、コアラはそのわずかな違いを敏感に察知して、食べる葉を選んでいます。
さらに、苦味を感じる味覚も鋭く発達しており、舌で毒の有無を確認する仕組みも備わっています。
コアラの健康チェックも工夫いっぱい
番組では、コアラにストレスをかけない健康管理の方法も紹介されました。
体重測定では、コアラが木にしがみついた状態のまま体重計に乗せることで、安心感を与えています。
特に小さな子どものコアラを測定する際には、母親代わりのぬいぐるみを持たせて落ち着かせるという、愛情あふれる工夫が見られました。
暑さに弱い?コアラの暑さ対策
人間のように汗をかいて体温を下げることができないコアラにとって、夏の暑さは深刻な問題です。
そこでコアラは、夏になると木の幹にぴったりと抱きつき、自分の体の熱を木に移すことで体温を調整します。
一見のんびりしているように見えますが、環境に応じて体温を管理する器用さを持ち合わせています。
メスが選ぶのは“強いオス”
コアラの繁殖において、主導権を握っているのはメスです。
メスは気に入らないオスを拒否する力を持っており、その結果、オス同士がメスをめぐって争うことになります。
最終的に、競争に打ち勝ったより強いオスだけが子孫を残すことができるのです。
また、コアラは交尾の刺激によって排卵が始まる「交尾排卵」という珍しい繁殖形態をとります。
これにより、妊娠の成功率を最大限に高める工夫が自然の中で出来上がっています。
1円玉サイズの赤ちゃんが見せる“命の冒険”
生まれたばかりのコアラの赤ちゃんは、直径わずか2cm、重さはたったの0.3gしかありません。
これは1円玉とほぼ同じ大きさです。
コアラは胎盤が未発達なため、赤ちゃんは自力で母親のお腹の袋(育児嚢)まで這って移動し、その中で約半年間かけて成長します。
袋の中でお乳を飲んですくすくと育ち、体重が約400gになる頃にようやく外の世界へ顔を出します。
母親の袋は、有袋類特有の「前恥骨(ぜんちこつ)」という骨によって支えられており、赤ちゃんが大きくなっても袋が垂れ下がらないようになっています。
お母さんからの贈り物「盲腸便」
コアラが毒のあるユーカリを消化できるのは、腸内にいる特殊な細菌のおかげです。
しかし、生まれたばかりの赤ちゃんには、この細菌がいません。
そこで母親は、離乳期になると「盲腸便(もうちょうべん)」または「パップ」と呼ばれる特別なフンを赤ちゃんに与えます。
これは、ユーカリを消化するための腸内細菌が豊富に含まれた、まさに母親からの贈り物です。
赤ちゃんがこの盲腸便を食べることで、母親と同じようにユーカリを消化できる体へと変わっていくのです。
コアラの仲間はなぜ少ない?
現在、地球上には約6000種の有胎盤類(ヒトやイヌなど)がいるのに対し、コアラのような有袋類はわずか約350種しか存在しません。
これは、有袋類が有胎盤類に比べて繁殖の仕組みや生存率で不利な点が多く、特に生存競争の激しい北半球では生き残ることが難しかったためです。
コアラは、限られた地域でしか見られない非常に貴重な存在といえます。
ユーカリの森は命のよりどころ
コアラの生活に欠かせないユーカリは、オーストラリアの森を代表する木の一つです。
食事とすみかの両方を提供しており、コアラの命を支えるまさに「よりどころ」です。
オーストラリアには700種類以上のユーカリが分布し、湿地に強い種や乾燥地帯に適応した種など、多様な特徴を持っています。
コアラが特に好むのは、「スワンプマホガニー」や「リバー・レッドガム」といった特定の種です。
コアラ以外にも多くの生きものが暮らすユーカリの森
ユーカリの森は、コアラだけのすみかではありません。
その木1本に、多様な生態系が形成されています。
- コアラ : 食べ物・すみかとして利用します(特定の葉のみ食べる)。
- 鳥類(ミツスイなど) : 花の蜜を吸ったり、巣作りに枝を利用したりします。
- 昆虫類(カブトムシ等) : 木の皮に集まり、樹液を吸ったり、受粉を助けたりします。
- 有袋類(フクロモモンガなど) : 木の洞(うろ)をすみかにし、木々の間を飛び移って生活します。
ユーカリを守ることが森全体を守ることに
しかし、コアラが頼りにするユーカリの森は、森林伐採や頻発する山火事、都市開発によって年々減少し続けています。
ユーカリの木が失われることは、コアラだけでなく、そこに暮らす全ての生き物のすみかを奪うことにつながります。
このため、現地の保護団体はコアラが好むユーカリの苗木を植える活動などを行い、森の再生に取り組んでいます。
ユーカリの森を守ることは、森の生態系全体を守るための重要な活動なのです。
まとめ
「アニマルドック」で紹介されたコアラの生態についてまとめました!
ただ可愛いだけでなく、指紋を持つという意外な事実や、毒のあるユーカリを食べるための驚くべき体の仕組み、そして「盲腸便」を通して親から子へ命のバトンをつなぐ子育てなど、コアラの知られざる一面を知ることができました。
見た目からは想像もつかない生命の神秘と進化の工夫が、コアラという動物の奥深い魅力を教えてくれます。
最後まで読んで頂きありがとうございました。