2025年7月20日に放送されたEテレの番組「チョイス@病気になったとき」では、多くの人が経験する可能性のある「低血圧」について特集されました。
「血圧が低いだけ」と軽く考えがちですが、実はめまいや失神といった深刻な症状を引き起こすこともあります。
番組では、大人だけでなく子どもにも影響を及ぼす様々なタイプの低血圧について、専門家が分かりやすく解説しました。
この記事では、番組で紹介された起立性低血圧、血管迷走神経性失神、そして思春期に多い起立性調節障害のそれぞれの特徴、原因、そして日常生活でできる対策やセルフチェック法を詳しくご紹介します。
起立性低血圧ってどんなもの?
まず、立ち上がった瞬間にクラっとする「起立性低血圧」についてです。
これは単なる立ちくらみではなく、はっきりとした原因がある体の反応です。
どうして血圧が急に下がるの?
起立性低血圧は、体を動かす司令塔である「自律神経」の働きが、体の動きに追いつかなくなることで発生します。
結論として、立ち上がった際に重力で下半身に血液が移動し、脳への血流が一時的に不足することが直接の原因です。
健康な体では、自律神経が即座に心拍数を上げたり血管を収縮させたりして血圧を維持します。
しかし、この自律神経の調整機能がうまく働かないと、血圧の回復が遅れてしまい、めまいやふらつき、ひどい場合は失神といった症状が現れるのです。
どんな人に起こりやすい?
この症状は、特に高齢の方に多く見られます。
加齢に伴い、自律神経の機能や血管の弾力性が低下するため、急な血圧の変化に対応しにくくなるからです。
しかし、年齢に関係なく若い人でも発症します。
例えば、夏の水分不足、寝不足やストレスによる自律神経のバランスの乱れが引き金になります。
また、もともと血圧が低めの人や、長時間立ちっぱなしになることが多い人も注意が必要です。
身近な症状を見逃さないために
日常のささいな不調が、起立性低血圧のサインであることも少なくありません。
立ち上がった時のめまいやふらつき、目の前が暗くなる、肩が重く感じるといった症状が繰り返し起こる場合は、注意が必要です。
これらの症状は一時的だと軽視されがちですが、放置すると転倒による怪我のリスクも高まります。
体の小さな変化に気づき、早めに対策を考えることが大切です。
血管迷走神経性失神とは?
次に、特定の状況下で意識を失ってしまう「血管迷走神経性失神」です。
健康な若者にも起こりうるのが特徴で、体の防御反応が過剰に働いた結果として現れます。
どんなときに起こりやすいの?
このタイプの失神は、心と体に強いストレスがかかる場面で発生しやすくなります。
具体的には、注射や採血時の痛みや恐怖、満員電車など人ごみでの長時間の立ちっぱなし、強い精神的緊張を感じる発表や面接の場面などが挙げられます。
また、蒸し暑い場所や空気の薄い環境も誘因となります。
失神の前に見られる体のサイン
失神発作が起こる直前には、体からの警告サインが現れることが多くあります。
顔面が蒼白になる、冷や汗、めまい、吐き気、耳鳴り、視界が狭くなるといった前兆を感じたら、危険のサインです。
このような症状が出た場合は、無理に立っていることをやめ、すぐにしゃがむか座って休みましょう。
可能であれば、脚を少し高くして横になると脳への血流が改善し、失神を回避できる可能性が高まります。
倒れてしまうことの危険性
血管迷走神経性失神そのものは、数分で意識が回復することがほとんどです。
しかし、最も危険なのは意識を失って倒れることによる二次的な怪我です。
転倒時に頭を強く打ったり、硬い床で骨折したりするリスクがあります。
発作が繰り返される場合や、横になっている時にも症状が出る場合は、心臓など他の病気が隠れている可能性もあるため、必ず医療機関で相談することをおすすめします。
学生に多い「起立性調節障害」
特に思春期の子どもたちを悩ませるのが「起立性調節障害」です。
これは自律神経の働きが体の成長に追いつかず、様々な不調を引き起こす病気です。
朝がつらいのは努力不足ではない
この病気の最も大きな特徴は、午前中に体調が著しく悪化し、午後になると回復する点です。
朝、起き上がれない、強い頭痛や吐き気がある、食欲がないといった症状は、本人の気持ちの問題や怠慢ではありません。
立ち上がった際に脳への血流が十分に確保されないという、身体的な仕組みの問題が原因です。
この体調の波が周囲に理解されにくく、本人が「甘えている」と誤解されて苦しむことも少なくありません。
学校生活に与える影響とその対応
午前中の深刻な体調不良は、学校生活に大きな影響を及ぼします。
朝に登校できず、遅刻や欠席が続くことで、不登校につながってしまうケースもあります。
この病気への理解がないと、無理に登校を強制され、本人の心身の状態をさらに悪化させかねません。
しかし、病気について正しく理解し、保健室登校や午後からの登校といった柔軟な対応をとることで、本人の負担を軽減し、回復をサポートできます。
家庭と学校の支えが回復へのカギ
起立性調節障害からの回復には、本人の努力だけでなく、周りのサポートが不可欠です。
生活リズムを整え、水分や塩分を意識的に摂取するといった生活上の工夫を続けながら、体の回復をじっくりと待つことが基本になります。
家庭と学校が連携し、本人の状態を理解して支える環境があれば、子ども自身も安心して治療に取り組むことができ、回復への道を歩んでいけるのです。
日常生活で気をつけたいこと
これまで紹介してきた3つのタイプの低血圧症状を和らげるためには、日常生活での少しの工夫が非常に重要です。
誰でも今日から始められる対策をご紹介します。
水分と塩分を意識してとる
まず基本となるのが、水分を十分に摂取することです。
体内の水分量が不足すると血液量も減少し、血圧が下がりやすくなります。
朝起きた直後にコップ1杯の水を飲む習慣をつけたり、日中もこまめに水分を補給しましょう。
特に汗をかきやすい夏場や運動後は、塩分も同時に摂ることが大切です。
食事で少し塩分を多めにしたり、塩タブレットなどを活用するのも効果的です。
急に立ち上がらない、体をゆっくり動かす
血圧の急激な変動を防ぐためには、動作をゆっくり行うことがポイントです。
寝ている状態から起き上がる時や、座った姿勢から立ち上がる時は、急に動かず、一呼吸おいてからゆっくりと体を動かすように意識してください。
特に、自律神経の働きがまだ整っていない朝の起床時は、一度横向きになってから、腕で体を支えるようにしてゆっくりと起き上がるのがおすすめです。
脚を動かすことで血流を助ける
長時間立っていたり座っていたりすると、重力によって血液が下半身に溜まりやすくなります。
これを心臓に戻すポンプの役割を果たすのが、ふくらはぎの筋肉です。
意識的に脚を動かすことで、全身の血流を促進できます。
家事の合間などにその場で足踏みをしたり、かかとの上げ下げ運動、軽いスクワットなどを取り入れましょう。
また、適度な圧力のある着圧ソックスを日中に履くと、下半身に血液が滞るのを防ぐ助けになります。
ただし、就寝中は血流を妨げる可能性があるため、外してください。
低血圧の種類別 対策と特徴
ここで、番組で紹介された低血圧のタイプごとの特徴と対策を一覧でまとめます。
ご自身の症状がどれに近いか確認してみましょう。
病名 | 主な症状 | 起こりやすい人 | 対策の例 |
---|---|---|---|
起立性低血圧 | めまい、ふらつき、失神 | 高齢者、水分不足の人 | 水分・塩分の補給、立ち方の工夫、運動 |
血管迷走神経性失神 | 吐き気、冷や汗、意識が遠のく | 若者、緊張しやすい人 | 姿勢を変える、横になる、脚を高くする |
起立性調節障害 | 朝の不調、頭痛、倦怠感 | 小中高生 | 水分補給、生活リズムの改善、学校の支援 |
起立性低血圧・調節障害が心配な人へ セルフチェックで体のサインに気づこう
「もしかして自分も?」と感じた方のために、自宅で簡単にできるセルフチェック法を紹介します。
これは病気を診断するものではありませんが、ご自身の体の状態を知るための手がかりになります。
立ち上がったときの症状チェック(起立性低血圧)
立ち上がった直後の体の変化に注目してください。
以下の6つの項目のうち、3つ以上当てはまる場合は起立性低血圧の可能性があります。
- 立ったときにめまいやふらつきを感じることがある
- 視界が急に暗くなったり、ぼんやりすることがある
- 立っていると気分が悪くなり、意識が遠のいたようなことがある
- 冷や汗が出たり、気分が悪くなってその場にしゃがみこんだことがある
- 立ち上がると頭痛がして、数分間動けなかったことがある
- 朝起きると頭が重く、体がだるくて起き上がるのがつらい
午前中の不調や日常の違和感(起立性調節障害の傾向)
特に学生の方で、午前中に不調が集中する場合はこちらを確認してみてください。
次の4項目のうち2つ以上に加え、前述の「立ち上がったときの症状」も当てはまる場合は、起立性調節障害の可能性が高いです。
- 学校に行く時間帯になると体調が悪くなることが多い
- 朝起きた直後は頭痛や吐き気があり、食欲もわかない
- 午前中はずっと調子が悪いのに、昼すぎになると元気が出てくる
- 動悸がしたり、少し歩いただけで疲れてしまうことがある
簡単な確認法としての血圧チェック
家庭用の血圧計があれば、より客観的に状態を確認できます。
まず、横になって5分ほど安静にした後に血圧を測定します。
その後すぐに立ち上がり、1分後と3分後にもう一度測定してください。
この時、上の血圧(収縮期血圧)が20mmHg以上、または下の血圧(拡張期血圧)が10mmHg以上下がっていれば、起立性低血圧のサインです。
自分の体の変化を知ることが大切
セルフチェックは、自分の体が発しているサインに気づくための第一歩です。
これらのチェックで当てはまる項目があったとしても、すぐに病気と決まるわけではありません。
しかし、日常生活に支障が出ていたり、症状が頻繁に起こるようであれば、早めに専門の医療機関を受診することをおすすめします。
自分の体の状態を正しく知ることが、改善への最も重要なステップです。
まとめ
Eテレ「チョイス@病気になったとき」で紹介された低血圧についてまとめました!
単なる体質と思われがちな低血圧ですが、その背景には「起立性低血圧」「血管迷走神経性失神」「起立性調節障害」といった、はっきりとしたメカニズムを持つ状態があります。
特に、子どもに多い起立性調節障害は、本人のやる気の問題ではないことを周囲が理解し、サポートすることが何よりも大切です。
立ちくらみや朝の不調といった身近な症状の中に、体からの重要なサインが隠れていることもあります。
今回ご紹介した日常生活での対策やセルフチェックを活用し、ご自身の体の声に耳を傾けてみてください。
そして、つらい症状が続く場合は、決して一人で悩まず、医療機関に相談しましょう。
最後まで読んで頂きありがとうございました。