2025年8月3日に放送されたNHK Eテレ「チョイス@病気になったとき」では、においが分からなくなる「嗅覚障害」について特集されました。
嗅覚の低下は食事の楽しみが減ったり、危険なにおいに気づけなくなったりと、生活の質(QOL)を大きく下げてしまいます。
番組では、嗅覚障害の代表的な原因から、自宅でできるトレーニング、そして最新の医療まで、回復への道を分かりやすく紹介しました。
嗅覚障害の原因は?
においが感じられなくなる嗅覚障害の主な原因として、「慢性副鼻くう炎」と「新型コロナウイルス感染後の後遺症」の2つが挙げられます。
慢性副鼻くう炎の場合、鼻の内部にある副鼻腔という空洞に炎症が起き、粘膜が腫れたり、鼻茸(はなたけ)と呼ばれるポリープができたりします。
これらがにおいの分子が通る道を物理的にふさいでしまうことで、においを感じにくくなります。
特に「好酸球性副鼻腔炎」というタイプの副鼻くう炎は、鼻茸が再発しやすく、治療が難しいことで知られています。
一方で、新型コロナウイルスに感染した後に起こる嗅覚障害は、ウイルスが嗅覚に関わる神経自体にダメージを与えることが原因です。
これにより、においの情報が脳へ正しく伝わらなくなり、においを感じなくなったり、違うにおいに感じたりすることがあります。
嗅覚障害の種類と診断方法
嗅覚障害は、その原因によって大きく3つのタイプに分けられます。
- 気導性嗅覚障害 : 鼻づまりや鼻茸など、においの分子が嗅覚神経に届くまでの通り道がふさがれることで起こります。
- 嗅粘膜性障害 : 嗅覚神経そのものがウイルス感染や頭部の外傷などでダメージを受けて起こります。
- 混合性嗅覚障害 : 上記の気導性と嗅粘膜性の両方の原因が合わさっているタイプです。
診断の際には、まず鼻の中を内視鏡で詳しく観察したり、CT検査で副鼻腔の状態を画像で確認したりします。
さらに、「T&T嗅覚検査」という、基準となる5つのにおいを嗅ぎ分けられるか調べる検査を行い、嗅覚の低下の程度を客観的に評価します。
これらの検査結果を総合的に判断し、原因や重症度を見極めることが治療の第一歩となります。
治療法は症状にあわせて選択
嗅覚障害の治療は、原因や症状の重さに合わせて様々な選択肢があります。
まず、副鼻くう炎による炎症を抑えるために、ステロイドの点鼻薬や内服薬が用いられます。
これらの薬で炎症や粘膜の腫れを引かせることで、においの通り道を確保します。
薬物治療で十分な効果が得られない場合や、大きな鼻茸がある場合には、「内視鏡下副鼻腔手術」が検討されます。
この手術では、鼻の穴から内視鏡を入れ、鼻茸や炎症を起こしている粘膜を切除し、においの通り道を物理的に広げます。
さらに近年、特に治療が難しいとされてきた好酸球性副鼻腔炎に対して、「生物学的製剤」という新しい治療法が登場しました。
これは炎症を引き起こす物質の働きをピンポイントで抑える注射薬で、「デュピルマブ(Dupilumab)」などの薬剤が保険適用となっています。
この薬の登場により、手術を繰り返しても再発していた重症の患者さんでも、嗅覚が改善する希望が持てるようになりました。
コロナ後の嗅覚障害にはトレーニングがカギ
新型コロナウイルス感染後の後遺症として残った嗅覚障害には、薬だけでなく「嗅覚トレーニング」が有効です。
これは、特定のにおいを意識的に嗅ぐことで、ダメージを受けた神経と脳のつながりを再構築し、嗅覚を回復させるリハビリテーションの一種です。
このトレーニングは自宅で安全に行うことができ、具体的な方法は非常にシンプルです。
においの種類 | 嗅ぐ時間 | 回数/日 | 期間の目安 |
---|---|---|---|
バラ | 15〜20秒 | 朝と夜 | 最低12週間 |
レモン | 15〜20秒 | 朝と夜 | 最低12週間 |
ユーカリ | 15〜20秒 | 朝と夜 | 最低12週間 |
クローブ | 15〜20秒 | 朝と夜 | 最低12週間 |
この4種類の香りを、朝と夜の1日2回、それぞれ15秒から20秒ほど集中して嗅ぎます。
ただ嗅ぐだけでなく、「これはバラの香りだ」と頭の中で意識することが重要です。
このトレーニングを最低でも12週間続けることで、個人差はありますが、半年から1年ほどで改善が見られるケースが多く報告されています。
専門外来や相談できる医療機関
嗅覚障害の悩みは、専門の医療機関で相談することが解決への近道です。
番組では、先進的な治療に取り組む医療機関が紹介されました。
医療機関名 | 特徴 | 所在地 |
---|---|---|
東京慈恵会医科大学附属病院 | 嗅覚障害の専門外来を設け、嗅覚トレーニングや生物学的製剤による治療も実施。 | 東京都港区西新橋 |
鼻とにおいのクリニック池袋 | 好酸球性副鼻腔炎の治療や研究に力を入れている。 | 東京都豊島区南池袋 |
愛知医科大学メディカルセンター | コロナ後遺症外来を設置し、においの悩みに幅広く対応。 | 愛知県長久手市 |
これらの医療機関では、専門医による的確な診断と、患者さん一人ひとりの症状に合わせた最適な治療法を提案しています。
嗅覚トレーニング用アロマキットのご紹介
嗅覚トレーニングを自宅で手軽に始めるために、専用のアロマキットが市販されています。
トレーニングに効果的とされる「バラ」「ユーカリ」「レモン」「クローブ」の4つの香りがセットになっており、初心者でもすぐに取り組めるのが魅力です。
生活の木 嗅覚トレーニング精油4種リフィルセット
日本の有名アロマブランド「生活の木」が販売するキットです。
初心者にも扱いやすく、安心して使えると評判です。
セットには、バラ、ユーカリ、レモン、クローブの4種類の精油(各10ml)に加えて、トレーニングに使う専用の容器と分かりやすい使い方ガイドが付属しています。
朝晩2回、香りを15〜20秒ずつ嗅ぐだけの簡単なトレーニングを、すぐに始められます。
価格は約3,900円から4,000円程度で、楽天市場やAmazonといった通販サイトで手軽に購入できるのも嬉しいポイントです。
医療機関でも紹介されることがあるほど信頼性が高く、口コミでは約8割の方が回復を実感したとの報告もあります。
NeilMed Smell Restore 嗅覚トレーニングキット
医学的な根拠に基づいて開発された、アメリカ製のトレーニングキットです。
海外の医療機関でも採用されている実績があります。
このキットの特徴は、4種類の香りが染み込んだ固形フォームがセットになっている点です。
1回使い切りの吸引用タイプなので、精油で手が汚れる心配がなく、忙しい方でも手軽に続けられます。
約60日ごとの交換が推奨されており、香りを定期的に入れ替えながら長期的なトレーニングが可能です。
価格は約3,300円前後で、こちらも国内の通販サイトで購入できます。
固形タイプで液漏れの心配がなく、保存性も高いため、持ち運びにも便利です。
選び方と使い方の注意点
嗅覚トレーニングの効果を最大限に引き出すためには、いくつかのポイントがあります。
最も大切なのは、「これは何の香りか」を強く意識しながら嗅ぐことです。
ただ漫然と香りを吸い込むのではなく、「これはレモンの香りだ」と脳に言い聞かせるように認識することで、神経の再接続が促されます。
また、アロマキットは香りの成分が濃縮されているため、妊娠中の方やアレルギー体質の方は使用に注意が必要です。
使用前に肌でパッチテストを行うなど、安全を確認してから始めましょう。
万が一、体調に異変を感じた場合はすぐに使用を中止し、医師に相談してください。
効果を実感するまでには時間がかかります。
多くの研究で「最低12週間、毎日朝晩2回」の継続が効果的とされています。
焦らず、日々の習慣としてコツコツと続けることが回復への鍵となります。
目的別おすすめキット一覧
どちらのキットを選ぶか迷った際は、以下の表を参考にしてください。
目的 | 向いているキット | 特徴 |
---|---|---|
初めて家庭でトレーニングを始める方 | 生活の木(精油+容器+説明書) | 日本語対応で分かりやすく、使いやすいセット内容 |
医療機関で使用されている実績があるものを試したい方 | NeilMed Smell Restore | 吸引タイプ/個別包装/再購入しやすい |
まとめ
今回は、Eテレ「チョイス@病気になったとき」で紹介された嗅覚障害についてまとめました。
においが分からない状態が続くと、それが当たり前になってしまいがちです。
しかし、近年の医療の進歩により、治療やトレーニングで改善できる可能性が広がっています。
もし「最近においが分かりにくいな」と感じたら、放置せずに専門の医療機関を受診し、自分に合った回復方法を見つけることが大切です。
嗅覚トレーニングキットなどを上手に活用しながら、焦らずじっくりと取り組んでいきましょう。
最後まで読んで頂きありがとうございました。