2025年7月14日に放送されたNHK「クローズアップ現代」では、ウクライナ戦争の裏で急速に深化する北朝鮮とロシアの軍事協力関係について特集されました。
この特集では、単なる兵器の提供に留まらない両国の結びつきの実態に、独自の映像や証言を交えて迫りました。
軍事技術の移転や経済支援までもが行われるこの関係は、東アジア、ひいては世界の安全保障の枠組みを大きく揺るがす新たな現実を突きつけています。
北朝鮮とロシアの“軍事協力”が意味する新たな現実
北朝鮮とロシアの協力関係は、これまでの利害の一致を超え、戦略的に深く結びついた新たな段階へと移行しました。
この動きは、東アジアのパワーバランスに直接的な影響を及ぼす重大な事態です。
軍事協力のはじまりと加速する背景
両国の軍事的な接近が加速したのは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻がきっかけです。
国際社会から厳しい制裁を受けるロシアは、兵器や資源の新たな供給源として北朝鮮に注目しました。
一方、北朝鮮にとっても、経済的な苦境を打開し、高度な軍事技術を獲得するためにロシアとの関係強化は極めて魅力的でした。
この相互の利害関係は、2024年6月に金正恩総書記とプーチン大統領が署名し、同年12月に発効した「包括的戦略的パートナーシップ条約」によって決定的なものとなります。
この条約には有事の際に相互に支援する「相互防衛」の趣旨が盛り込まれており、両国が事実上の軍事同盟関係を形成したことを示しています。
武器だけではない多面的な支援
北朝鮮からロシアへの支援は、武器供与という側面だけでは捉えきれません。
砲弾やミサイルといったハードウェアの提供に加え、兵士や作業員の派遣、地雷除去といった人的支援、さらには技術協力といった多面的な形で実行されています。
この多角的な支援体制は、両国の関係が単なる兵器の売買といった一時的なものではなく、互いの戦争遂行能力と国家体制を支え合う、より深く、より強固な戦略的パートナーシップへと変質したことを物語っています。
具体的な軍事支援の内容と規模
番組では、具体的な物資や人員の規模にも言及し、その支援がウクライナの戦況に与えている深刻な影響を明らかにしました。
武器供与の実態
北朝鮮は、ロシアに対して膨大な量の武器を供給しています。
その内容は、数百万発規模に達する砲弾やロケット弾、北朝鮮製のM-1989自走砲、そして短距離弾道ミサイル「KN-23」シリーズなど多岐にわたります。
これらの兵器はすでにウクライナの最前線で実戦投入されており、西側諸国からの制裁で兵器不足に悩むロシア軍の火力を維持するための、極めて重要な補給源となっています。
兵士と技術者の派遣
物的な支援に加え、人的な貢献も大規模に行われています。
2025年に入ってから、約1万人以上の北朝鮮兵士がロシアに派遣されました。
彼らは戦闘支援や兵站、陣地の整備といった後方支援任務に従事しています。
さらに、軍事協力とは別に、約6,000人規模の建設技術者や地雷除去の専門家などもロシア東部に送り込まれており、これは人的インフラ支援としての側面も持っています。
技術の移転と共同開発の兆し
ロシアは、見返りとして北朝鮮に高度な軍事技術を提供しています。
その中には、弾道ミサイル技術、潜水艦の設計ノウハウ、人工衛星の運用技術といった、北朝鮮が長年獲得を熱望してきたものが含まれます。
特に注目すべきは、2025年に進水した北朝鮮の最新鋭駆逐艦です。
この艦にはロシア製の通信機器や火器管制システムが搭載されていると分析されており、両国間での兵器の共同開発が始まっている可能性を示唆しています。
この技術移転により、北朝鮮の軍事力は質的に大きく向上し、新たな脅威となりつつあります。
北朝鮮が得ている“見返り”の実態とは
北朝鮮は、ロシアへの大規模な支援と引き換えに、軍事、経済、外交の各分野で多大な利益を得ており、国力を飛躍的に増強させています。
先端技術の獲得による軍拡加速
ロシアから提供される先端軍事技術は、北朝鮮の兵器開発を劇的に加速させる原動力です。
特に、長距離ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載可能な潜水艦、そして軍事偵察衛星といった戦略兵器の能力が質的に向上することは、国際社会にとって看過できない脅威となります。
実戦経験という“学び”
北朝鮮兵士がロシア軍と共にウクライナの戦場で活動することは、彼らにとって貴重な「学び」の機会となります。
現代戦における指揮系統、最新の戦術、そして西側兵器との交戦データなど、実戦でしか得られない経験は、北朝鮮軍全体の近代化と戦闘能力の向上に直接的に貢献します。
経済的・外交的利益
軍事的な見返りだけでなく、経済的・外交的な利益も甚大です。
ロシアからは兵器や技術に加え、国連の経済制裁下にある北朝鮮の経済を支える燃料、食料、建設資材などが大量に供給されています。
さらに、国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアという強力な後ろ盾を得たことで、北朝鮮は国際社会における孤立を脱し、外交的な発言力や交渉力を著しく強化しています。
東アジアと世界に広がる影響
この二国間の緊密な連携は、もはや両国だけの問題ではなく、東アジア地域、さらには世界の安全保障秩序全体を揺るがす深刻な事態へと発展しています。
日本・韓国・アメリカの防衛再編
北朝鮮の軍事力がロシアの技術支援によって飛躍的に強化されることは、隣国である日本と韓国の安全保障にとって直接的かつ重大な脅威です。
この新たな脅威に対抗するため、日米韓三カ国の安全保障協力は急速に深化しています。
具体的には、弾道ミサイル防衛体制の連携強化や、2025年にはB-52戦略爆撃機やF-35最新鋭戦闘機が参加する大規模な日米韓共同訓練が実施されるなど、抑止力と対処能力の向上を目的とした防衛体制の再編が加速しています。
新たな国際的軍事ブロック“CRINKs”の台頭
北朝鮮(North Korea)とロシア(Russia)の関係深化は、同じく西側諸国と対立するイラン(Iran)や中国(China)との連携を促し、「CRINKs」と通称される新たな反西側連合の形成につながっています。
この動きは、自由主義陣営と権威主義陣営の対立をより一層鮮明にし、国連を中心とした既存の国際秩序の維持を困難にする、新たな地政学的な構造を生み出しています。
中国の複雑な立場と動き
伝統的な友好国である北朝鮮の行動に対し、中国は複雑な立場にあります。
中国は北朝鮮への経済支援を続けつつも、ロシアとの過度な軍事的接近が地域の不安定化を招き、自国の影響力を損なうことを警戒し、慎重な姿勢を崩していません。
北朝鮮の独走を中国がどこまで容認するのか、あるいはコントロールしようとするのか。
今後の中国の動向が、東アジア全体の戦略的バランスを左右する重要な鍵となります。
まとめ
今回の「クローズアップ現代」で特集された北朝鮮とロシアの軍事協力は、国際社会が新たな対立の時代に突入したことを明確に示しています。
兵器の供与から始まり、技術移転、人的交流、そして事実上の軍事同盟へと発展した両国の関係は、東アジアの安全保障環境を根本から覆すものです。
この動きは、日本、韓国、アメリカをはじめとする国々に防衛体制の抜本的な見直しを迫ると同時に、「CRINKs」という新たなブロックの台頭により、世界の地政学的構造にも大きな変化をもたらしています。
私たち自身の未来にも深く関わるこの問題の動向を、今後も注視していく必要があります。